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理数の特集 AI・数学・宇宙 · ASL-012 · 第1版

AIが見つけた数式は、自然法則なのか?

銀河団の質量を推定する研究から、式の探索・過学習・物理の確かめ方へ

2026年10月20日確認 · AI補助:Codex · 掲載版

架空の成人研究者と数式の部品、銀河団の創作風景を描いた昭和レトロ風イラスト。天体写真ではない。
説明のためにAIで生成した創作イラストです。人物・場面は架空で、実験写真・実測データ・実際の装置配置や研究対象の正確な可視化ではありません。

ばらばらの点を見せたら、コンピューターが短い数式を返してきた。しかも、これまでの式よりよく当たる。そこには、まだ誰も知らない自然の決まりが隠れているのでしょうか。あるいは、点の並びを器用になぞっただけなのでしょうか。式が読める形で出てくると、私たちは、その意味まで分かった気になりがちです。

今回は、AIに数式の形を探させる「記号回帰」を扱います。具体例は、銀河が集まった巨大な天体、銀河団の質量を推定する2023年の研究です。過去の成果を今年の新発見とは呼ばず、今の科学でAIがどんな役割を担えるのかを学ぶ入口にします。式の当てはまり、複雑さ、別データへの予測、物理的な説明を分けて読みましょう。

01

短い答え:よく当たる式は、検討すべき候補になる

データに合う式が見つかったことだけで、自然法則が確定するわけではありません。一方で、役に立つ経験式や推定式も科学の成果です。観測できる量と、直接は測りにくい量を結び、どの変数が効いているのかを考える手がかりになります。重要なのは、「何を推定し、どんな条件で確かめた式なのか」です。

根拠:PNAS 120(12), e2202074120 / PMC収録の正式論文 [SR-S01]Miles Cranmer / 著者公開論文 [SR-S03]

データに合う式、別のデータと条件、物理的な説明を分ける概念図。
式がデータに合う段階と、その使える範囲や物理を確かめる段階を分ける自作概念図。法則認定の一律な採点表ではありません。 図を選ぶと原寸で開けます。

たとえば、今まで見た九つの点をすべて通る曲線は作れます。しかし、点と点の間で大きく波打ったり、少し外側で急に跳ね上がったりするかもしれません。点にぴったり合うことと、その背後の関係をつかむことは、同じ問題ではないのです。

02

数字を調整するだけでなく、式の形を探す

ふつうの直線の当てはめでは、まずy=a+bxという形を決めます。xとyは比べたい二つの量、aは上下の位置、bは傾きを決める数です。コンピューターは、点からのずれが小さくなるようにaとbを調整します。式の形は、人が先に決めています。

記号回帰では、変数や定数、足し算・掛け算・平方根などを部品にして、式の構造も探索します。直線にするか、xの二乗を使うか、別の変数で割るかまで候補になるのです。ただし、使える部品、式の大きさ、許す範囲は人が設定します。あらゆる数学を制約なく調べ尽くす機能ではありません。

根拠:Miles Cranmer / 著者公開論文 [SR-S03]PySR公式文書 [SR-S05]

a+b×x²の構造を木で示す。根は足し算、右の枝はbとx²の掛け算。
a+b×x²という式を、計算の順番を示す木として表した自作図です。上から順番に読む文章ではなく、枝の先の計算を合わせる構造です。 図を選ぶと原寸で開けます。

PySRという道具では、候補の一部を変えたり、別の候補の一部を組み合わせたりし、定数も最適化しながら探索します。進化に似た考え方を使いますが、式が自分の目的を持って考えているという意味ではありません。変数を一つ増やす、掛け算を足し算に変える、といった操作と評価を繰り返す仕組みです。

根拠:Miles Cranmer / 著者公開論文 [SR-S03]

03

まず、「どれだけずれたか」を数える

あるxに対して、式fが予測した値をf(x)と書きます。実際に用意した値yから予測を引いたy−f(x)が、残差です。プラスのずれとマイナスのずれを、そのまま足すと打ち消し合います。そこで、ずれを二乗してから平均する方法があります。

自作した点と予測線の縦の距離を示す概念図。宇宙の実測値ではない。
点から予測線までの縦の差が残差です。点と直線は説明用に作ったもので、銀河団の観測結果ではありません。 図を選ぶと原寸で開けます。
MSE=1N∑i=1N(yi−f(xi))2
各点のずれを二乗し、足して、点の数で割ります。MSEは平均二乗誤差の略称です。小さいほど、使った点によく合います。
N
比較する点の個数。
i
1点目、2点目と区別する番号。
Σ
シグマ。各番号について足し合わせる記号。
xᵢ・yᵢ
i番目の点の横と縦の値。
f(xᵢ)
候補の式が予測する縦の値。

たとえば残差が+1と−1なら、二乗はそれぞれ1なので平均も1です。平均二乗誤差は大きなずれを強く数えます。外れた値の扱いや測定の性質に応じて、別の評価方法が必要なこともあります。後で紹介する銀河団の原論文は、探索に絶対値のずれと重みを使っており、この教材のMSEと同一ではありません。

根拠:PNAS 120(12), e2202074120 / PMC収録の正式論文 [SR-S01]

04

式を長くする代わりに、何を得たのか

使える項や定数を増やせば、点に合わせる自由が増えます。その自由が、測定の揺らぎまで拾うと、未知の点ではかえって外れます。これが過学習です。そこで、ずれの小ささだけでなく、式の複雑さにも目を向けます。

根拠:Miles Cranmer / 著者公開論文 [SR-S03]

J=MSE訓練+λ×C
この教材では、訓練点の平均二乗誤差に、複雑さへの負担を足します。これは考え方を学ぶ簡略な評価式で、PySRの探索全体を再現していません。
J
候補を選ぶための評価値。小さい方を選びます。
λ
ラムダ。複雑さをどの程度嫌うかを決める重み。
C
複雑さ。教材では係数の個数を数えます。
MSE訓練
式を合わせるために使った点の平均二乗誤差。

根拠:Miles Cranmer / 著者公開論文 [SR-S03]

誤差と複雑さの折り合いを示す概念図。数値の性能比較ではない。
誤差と複雑さを別々に見る概念図。点の位置は説明用で、PySRの実行結果や論文の性能値ではありません。 図を選ぶと原寸で開けます。

λを大きくすると単純な式が選ばれやすくなります。しかし、単純なら必ず正しいということではありません。単純すぎる式は、実在する曲がり方まで見落とします。逆に複雑な式が必要な現象もあります。実際の記号回帰では、演算や変数の数などで複雑さを数え、誤差と複雑さの折り合いが異なる複数の候補を残して検討します。

根拠:Miles Cranmer / 著者公開論文 [SR-S03]

05

点と複雑さを変えて、三つの候補を比べる

下の模型では、九つの訓練点へ、直線、2次式、全点を通る高々8次の式を合わせます。「2次」はx²まで、「8次」はx⁸まで使うという意味です。異なる横座標の九点には、高々8次の多項式を通せます。ここでの複雑さは2・3・9と数えます。固定した三つの候補を比較する教材で、ブラウザで本物のAI探索を走らせているわけではありません。

まず点のずれを0.20、λを0にしてみてください。全点を通る式は訓練のずれをほぼ0にできます。次に検証用の点を表示し、点と点の間ではどう予測したかを見ます。λを少し上げた結果とも比べましょう。ずれを0にすれば、模型で決めた元の2次式を取り戻しやすくなります。模型の結果は、設定された点と評価式から計算したものです。

06

使わなかった点と、範囲の外で確かめる

訓練点だけで選んだ式を、合わせるのに使わなかった点で試します。ただし、検証点を何度も見て、良く見える設定へ変え続ければ、その検証点も選択に使ったことになります。最後の確かめには、選択へ使わない別のデータや、独立した条件での試験が必要です。これは模様を探す統計の記事ともつながります。

訓練、検証、最終試験の役割を分ける。点数配分は研究ごとに異なる。
式を作る点、候補を比べる点、最後に確かめる点の役割を分けた概念図。固定比率や、この順番だけで正確さを保証する図ではありません。 図を選ぶと原寸で開けます。

また、点がある範囲の間を埋める「内挿」と、範囲の外へ予測を伸ばす「外挿」は違います。模型の訓練範囲はx=−1から1です。x=1.5への値を比べると、範囲内では似た式でも、外では違う答えを出すことが分かります。外側を試すデータがなければ、形がきれいという理由だけで遠くまで使えません。

07

実例:銀河団の質量を、どう推定するか

銀河団は、多数の銀河、高温のガス、暗黒物質などが重力で結びついた天体です。全体を天秤に載せることはできないので、観測できる量から質量を推定します。高温ガスの電子が宇宙マイクロ波背景放射の光子と相互作用すると、その周波数の分布が変わります。これはスニヤエフ・ゼルドビッチ効果と呼ばれ、ガスの電子圧力の情報を得る手段です。

根拠:PNAS 120(12), e2202074120 / PMC収録の正式論文 [SR-S01]Institute for Advanced Study [SR-S02]

宇宙背景放射が高温ガスを通り、観測量から質量を推定する模式図。
宇宙背景放射、高温ガス、観測から質量を推定する関係の模式図。天体写真、実測の光子軌跡、正確な縮尺ではありません。 図を選ぶと原寸で開けます。

2023年の研究は、宇宙シミュレーションIllustrisTNGのTNG300を使い、圧力を積分した量だけに頼る推定を改良しました。まず別の機械学習法で有用な変数を調べ、記号回帰で読める式を探しています。追加されたのは、ガスが中心近くにどれだけ集中しているかという量です。探索の材料は主にシミュレーションで、実際の宇宙で新法則を直接発見した実験ではありません。

根拠:PNAS 120(12), e2202074120 / PMC収録の正式論文 [SR-S01]IllustrisTNG共同研究 [SR-S04]

M∝YSZ35(1−Acgas)
論文の主要な推定式を、量の対応が読みやすい表記にしています。論文の式11では、積分する範囲を指定したY₂₀₀cを使います。比例定数や適用条件を省いたまま、実際の質量を数値計算する式には使えません。
M
銀河団の質量。論文では境界内のM₂₀₀c。
∝
比例するという記号。等号ではありません。
YSZ
ガスの電子圧力を積分した量に対応する観測上の指標。ここではY₂₀₀cを指します。
3/5
5分の3乗。5乗根をとり、3乗する計算です。
cgas
中心までのガス質量を、全体のガス質量で割った比。
A
データに合わせて決める、単位のない係数。

根拠:PNAS 120(12), e2202074120 / PMC収録の正式論文 [SR-S01]

08

「中心の影響を弱める」を、式から読む

論文のcgasは、決めた半径R₂₀₀cの半分より内側にあるガス質量を、R₂₀₀cまでのガス質量で割った比です。R₂₀₀cは、内側の平均密度が、その時代の宇宙の臨界密度の200倍になる半径という境界の約束です。見た目の明るい輪郭とは違います。式へ使う範囲を定義しないと、別の量を比べてしまいます。

根拠:PNAS 120(12), e2202074120 / PMC収録の正式論文 [SR-S01]

半径Rの半分以内のガス質量をR以内のガス質量で割る。面積や体積の比ではない。
cgasの分子と分母を表す概念図。内側の半径は外側の半分。色はガス質量の測定値ではなく、体積比を質量比とみなす図でもありません。 図を選ぶと原寸で開けます。

Aを正の値に固定して考えると、cgasが大きいほど1−A cgasは小さくなります。中心部の影響を弱める働きとして解釈できるのです。研究者は、中心と外側のばらつきの違い、中心を除いた場合の結果なども調べました。式を出して終わらず、なぜその補正が役立つかを物理へ戻して考えています。

根拠:PNAS 120(12), e2202074120 / PMC収録の正式論文 [SR-S01]Institute for Advanced Study [SR-S02]

09

自然法則を考えるとき、数式の外へ出る

候補の式が分かりやすいことは利点です。それでも、短い式の各項が、そのまま自然の原因を表しているとは限りません。同じデータを説明する別の式がないか、単位が合うか、値を極端にしたときに不自然な振る舞いをしないか、既知の保存則と矛盾しないかを確かめます。

根拠:Miles Cranmer / 著者公開論文 [SR-S03]

当てはまり、別条件、物理制約を往復して検討する。順に進めば法則になるという図ではない。
式の当てはまり、別条件での予測、物理的な検討を行き来する概念図。段を上がれば自動で自然法則になるという図ではありません。 図を選ぶと原寸で開けます。

銀河団の研究でも、シミュレーションの近似や高質量側の標本不足、実観測で集中度を測る難しさが残ります。推定式を改良する成果と、重力の基礎法則を書き換える成果を区別すると、その研究が何を進めたのかを、かえって具体的に理解できます。

根拠:PNAS 120(12), e2202074120 / PMC収録の正式論文 [SR-S01]

AIは、人が試しきれない組合せを探す助けになります。そして、人は候補の意味を問い、別のデータや観測と照らし合わせます。「AIが新しい式を発見」というニュースに出会ったら、式の形だけでなく、訓練に使った材料、検証の条件、係数の調整、残された不確かさまで読んでみてください。

読み終えた後に残る問い

模型で、最も短い式と最もよく点を通る式が違ったら、どちらを選ぶために何を追加で調べますか。その問いを銀河団の研究へ置き換えると、どんな観測が欲しくなるでしょうか。

出典と確認範囲

以下の一次資料を参照した独自の説明です。資料の図版や写真は転載していません。数式の模型・研究の実測・理論上の成果を区別しています。

  1. Augmenting astrophysical scaling relations with machine learning: Application to reducing the Sunyaev–Zeldovich flux–mass scatter

    PNAS 120(12), e2202074120 / PMC収録の正式論文 · 2023-03-17 · SR-S01

    査読原著。DOI:10.1073/pnas.2202074120。本文§2–6、式9–12、Fig.4–7を確認。TNG300の質量推定、L1型損失と重み、複雑さ、ガス集中度、CAMELSでの係数調整と制約を照合。図版は転載しない。 確認:2026-10-20T11:00:35.965Z

  2. Astrophysicists Show How to “Weigh” Galaxy Clusters with Artificial Intelligence

    Institute for Advanced Study · 2023-03-23 · SR-S02

    研究機関の発表本文。集約ページではなくプレスリリース本体を参照。銀河団の質量を観測量から推定する問題設定を確認。本文の表現や画像は転用しない。 確認:2026-10-20T11:00:35.965Z

  3. Interpretable Machine Learning for Science with PySR and SymbolicRegression.jl

    Miles Cranmer / 著者公開論文 · 2023 · SR-S03

    著者公開版。式の木、変更・組合せ・定数最適化、複雑さ、パレートの考え方、物理制約を確認。ブラウザ教材の3候補・MSE+固定罰則を実際のPySRそのものとしない。 確認:2026-10-20T11:00:35.965Z

  4. IllustrisTNG Project Description

    IllustrisTNG共同研究 · 公開日未確定 · SR-S04

    宇宙の進化をモデル化する数値シミュレーションの目的と構成。画面の点群を宇宙の実測値としない。 確認:2026-10-20T11:00:35.965Z

  5. PySR documentation

    PySR公式文書 · 公開日未確定 · SR-S05

    記号表現を目的に沿って探す道具の説明を確認。製品・版をローカルへ導入せず、APIや外部AIを呼び出さない。 確認:2026-10-20T11:00:35.965Z

主要主張と出典の対応

SR-C01 記号回帰は定数に加えて式の構造を探索し、演算・複雑さ・物理制約などの設定に依存する。SR-S03、SR-S05。自然の全法則を網羅探索するものではない。教材の3候補探索とは区別。

SR-C02 2023年PNAS原著はTNG300の質量推定にガス集中度を加える主要な式11を報告した。SR-S01、SR-S02。基礎法則の発見や実天体での精度保証ではない。YとMの範囲は200c。

SR-C03 ガス集中度はR200c/2内のガス質量をR200c内のガス質量で割る。AはTNG300で0.4、CAMELS-SIMBAで0.8へ調整された。SR-S01。一般に固定の普遍定数ではない。式の無調整・盲検外部検証と扱わない。

SR-C04 教材は9訓練点、8検証点、直線・2次式・高々8次補間の3候補、MSEと係数個数2/3/9を使う。。自作の固定点群。AI実行、宇宙実測、PNASの重み付きL1損失を再現しない。

SR-C05 PySRには誤差と複雑さに応じた探索・候補保持があり、単純な固定罰則だけで全挙動を表せない。SR-S03。本稿のJは教材の約束。特定のAIや式の正しさの万能採点ではない。