AIのいま ASL-005 · 第3版
新しいAIの「すごい」をどう確かめる?

まず、短い答え
AIの成績は、何を能力と呼び、どの問題を選び、どんな条件で測ったかによって意味が変わります。点数の大小だけで比較すると、誤答と保留の違い、課題の偏り、試行のばらつきを見落とします。2026年10月20日に再確認したGPT-6.1 Solの公式紹介を入口に、評価の数字を読むための数学を考えます。企業の自己評価と独立した再現は区別します。
身近なたとえで考える
競技の成績を比べるなら、同じ距離を走ったか、追い風の条件は同じか、何回のうちの記録かを確かめます。AIでも、検索を使えたか、何回試せたか、時間をどれだけ使ったかで、点数の意味が変わります。モデル名だけそろえても、同じ条件を測ったとは限りません。
図で見る仕組み
OpenAIの公式ページは、低い推論設定で、事実誤りを含む回答の割合がGPT-6 Solの11.4%からGPT-6.1 Solの7.7%へ下がったと報告しています。差は3.7パーセントポイント、元の値に対する相対減少は約32%です。評価対象は、以前の誤りが利用者に指摘された難しい会話から選んだ問いであり、普段の利用を代表しないと明記しています。
もう少し詳しく
ここで確認したのは企業が公表した報告内容です。元の全回答を再採点したり、自分の環境で同じ結果を再現したりしたわけではありません。発表日の絶対日付をページ本文で確認できないため、確認日と区別し、直近何日以内のニュースとは表示しません。 報告値の単位は「一つ以上の事実誤りを含む回答」の割合です。文章中の各主張を一つずつ数えた誤り率でも、利用者が損害を受ける確率でもありません。公式資料は、研究環境やAPIと製品では、指示・道具・推論設定などによって出力が異なり得るとも説明しています。 以下の計算例は、この報告と独立した仮想評価です。公式資料で母数が分からない箇所に、例の100問や400問を補ってはいません。数字を読めることと、足りない情報を推測で埋めないことを両立させます。
割合には、分母と数え方がある
「誤り率7.7%」から最初に聞くのは、何を一件として数えたかです。一問の最終回答か、文章中の個別主張か、一連の作業かで単位が変わります。例えば十個の主張を書いた回答に一つ誤りがある場合、回答単位では誤りありの1件、主張単位では10件中1件です。同じ出力でも数え方で割合が変わります。
11.4%から7.7%への変化は、11.4−7.7=3.7ポイントです。元の11.4を分母にして減った割合を出すと約32.5%になります。小さな元の割合を基準にすると、相対的な変化が大きく見える場合があります。どちらの計算も正しくても、見出しで伝える印象は違います。元の割合と差を一緒に残すと読み違いを減らせます。
一方、残りの92.3%を「すべて正しく、安全」とは言えません。評価で数えなかった種類の誤りや、課題への不十分な対応があるかもしれません。何を失敗に含めたか、採点基準を読む必要があります。事実性、指示への適合、安全性、使いやすさは、互いに関係していても同じ指標ではありません。
保留も分けて数えます。答えないことで誤りが減ったなら、使える回答も減っていないか確かめます。逆に、全問へ何か答える方針なら、正答数は増えても誤答が増える場合があります。OpenAIの2025年の研究紹介も、正答・誤答・棄権を区別しています。どの振る舞いを良いとするかは、用途と失敗の負担で変わります。
仮に100問中60問へ答え、54問正答、6問誤答、40問保留だったとします。答えた範囲では90%正しくても、全体で正答した割合は54%です。前者は「答えたうち」、後者は「尋ねたうち」が分母です。片方を隠すと、違う振る舞いのAIを同じ成績として扱ってしまいます。この例は採点の読み方であり、製品の測定値ではありません。
絶対差=11.4−7.7=3.7ポイント 相対減少=(11.4−7.7)÷11.4≈32.5%
同じAIでも、問題の配分で平均点が変わる
評価問題は能力のすべてを含みません。短い知識問題、長い資料の読み取り、複数の道具を使う作業を、どの割合で入れるかで平均点が動きます。ベンチマーク(共通の課題で性能を比べる評価)は便利ですが、点数の外側に残る作業もあります。自分の用途へ近い問題構成かを確かめます。
独自の模型として、短い質問の正答率を90%、長い資料の正答率を50%とするAIを置きます。短い質問80%・長い資料20%の評価なら、平均は82%です。配分を半々にすると70%。モデルが変わらなくても12ポイント下がります。数字は説明のための仮定で、実在する製品の成績ではありません。
GPT-6.1 Solの例で、過去に誤りが指摘された会話を集めていることは、この問題構成の話に関わります。難しい失敗例で改善を調べる意義はありますが、その割合を普段の全質問へ移すには別の検証が要ります。評価で意図的に難問を増やしたのか、日常の配分に合わせたのかを分けて読みます。
2024年発表のSimpleQAは、短く、答えが一つに決まる事実質問を対象にしました。この限定によって採点しやすくなりますが、長い科学記事の数十の主張を正しく書けるかまでは直接測りません。良い評価にも対象範囲があります。評価の狭さを隠さず、その課題で何が分かったかを読むほうが、万能の順位を探すより具体的です。
公開された問題が学習や調整に使われていないか、似た問題へ慣れすぎていないかも確かめたい点です。ただし、公開資料に記載がないことから、漏洩があったと断定してはいけません。作成時期や除外手順が明示されているか、未公開の課題や別の言い方でも確かめたかという、確認できる情報を探します。
平均正答率=短い質問の配分×その正答率+長い資料の配分×その正答率
80問正解と、800問正解は同じ情報量ではない
100問中80問と1000問中800問は、どちらも80%です。しかし、有限の問題を選んで測った割合にはばらつきがあります。違う問題群を同じ方法で選べば、割合が少し変わることがあります。この不確かさを考えるには、分母の件数が必要です。小数点以下の桁が多いだけでは、精密な比較とは限りません。
まず、同じ成功確率pを持つ独立な二択試行をn回行う模型を置きます。NISTの統計資料が説明する二項分布です。正答数の標準偏差をnで割ると、割合の標準偏差は√(p(1−p)÷n)です。pが未知なら観測割合を入れた値を、標準誤差の目安として使えます。
pを0.8と置くと、n=100なら0.04で4ポイント、n=400なら0.02で2ポイントです。件数を4倍にして、ばらつきの尺度は半分になります。ただし、これは仮定した二項模型からの計算です。公式の11.4%と7.7%に、未公表の件数を仮定して当てはめてはいません。
実際のAI問題は、独立で同じ難しさとは限りません。同じ文章から作った十問、似た数学問題の言い換え、同じ道具に依存する作業には共通点があります。問題数だけ増えても、独立した情報が同じだけ増えるとは限りません。単純な式の適用条件から外れるときは、問題群や試行単位を考えた推定方法が必要です。
同じ問題を二つのAIへ出した比較では、「Aは正解しBは誤った」「Bは正解しAは誤った」という対応も重要です。別々の正答率だけでは、どの問題で差が付いたか消えてしまいます。数ポイントの差があっても、母数や対応、反復試行が不明なら優劣を断定しません。統計的な差があっても、自分の仕事で役立つ差かはさらに別です。
独立・同一確率の模型での割合の標準偏差=√(p(1−p)÷n)
再現に必要なのは、モデル名より詳しい記録
評価を再現するには、モデルの版、指示文、問いと採点基準、使える資料、道具、考える処理量、試行回数を残します。外部検索を使うなら、参照先や取得した版も条件になります。同じ名前の製品へ同じ問いを送ったつもりでも、資料が更新されれば入力条件は変わります。
一回だけ答えさせた成績と、何度も試して最良の回答を選んだ成績も比べ方が違います。採点に別のAIを使う場合は、その採点器の版と基準も必要です。OpenAIの評価用公式文書は、入力データと期待する挙動を決め、採点条件を定義する手順を示しています。ツールが受け付けたことと、評価が妥当に設計されたことは同じではありません。
試行回数の効果も模型で計算できます。一回の成功確率を0.5、各試行を独立とすれば、3回とも失敗する確率は0.5³=0.125。少なくとも一回成功する確率は87.5%です。ただし、成功した答えを見分ける採点器が必要で、実際の試行が独立とも限りません。何回でも出し直せば一回の回答が87.5%正しくなる、という意味ではありません。
企業の資料は、自社がどの条件で何を報告したかを確認する原典です。その企業自身が測った結果なのか、別組織の測定を引用したのかを記録します。査読の有無、データや採点器の公開範囲、独立再現の有無は別の欄です。企業資料だから無価値という結論にも、公式だから完全という結論にも進みません。
再現できた場合も、似た点数が出たことだけで結論しません。同じ問題で同じ種類の誤りが残ったか、採点が安定しているかを調べます。逆に再現できなくても、すぐに発表の虚偽と決めず、道具や版などの条件の差を点検します。合わなかった箇所を具体的に残すと、誰かが次の確認を続けられます。
このサイトで比較を試すなら、本人の用途に近い未公開の課題を用意し、正答、誤答、保留、根拠の対応、所要時間を同じ基準で記録する案が考えられます。費用を比較するなら、初回の成功だけでなく、失敗した試行と再試行も含めます。これは今後の評価設計の提案であり、本記事で有料APIや実測試験を行ったという記録ではありません。
新しいAIの数字を読む作業は、広告を否定するための粗探しではありません。何が改善し、どこへは結論を広げられないかを知るためです。最終的には「誰が何を、どの条件で何件測り、何を数えたか」が残れば、次の発表とも具体的に比較できます。大きな倍率より、この記録のほうが長く使えます。
理解を深める問い
自分の用途へ合うAIを比較するなら、どんな問題を何種類用意しますか。平均点へまとめる前に、残しておきたい失敗の分類を挙げてください。
根拠を確かめながら、自分の考えと照らし合わせてみてください。
理解の確認
同じ正答率80%でも、100問の試験と1000問の試験は、ばらつきについて同じ情報を持ちますか。
答えと理由を読む
件数と問題の関係を確かめる必要があります。
独立で同一確率の模型では件数が増えると割合のばらつきは小さくなります。実際の問題間に共通点があれば、その仮定も点検します。
出典と確認日
以下の一次資料を読み、独自の日本語で説明した記事です。資料の図や本文は転載していません。
- Why language models hallucinate
OpenAI · 企業の研究解説
確認:2026年10月20日 · 発表:2025-09-05。事前学習の次語予測、事実ラベルの欠如、正解率中心の評価と棄権の扱いを本文で再確認。全誤りの唯一の原因とはしない。紹介された論文の全証明・査読状況の独立確認は未実施。2025年当時の研究紹介であり最新順位ではない。
- Introducing SimpleQA
OpenAI · 企業による評価研究の発表
確認:2026年10月20日 · 発表:2024-10-30。短い単一の検証可能な事実質問、correct/incorrect/not attemptedの区分、確信度による校正と長文への一般化の限界を本文で確認。掲載当時のモデル順位・成績数値は本稿に採用しない。
- GPT-6.1 Sol / Introducing GPT-6.1 Sol
OpenAI · 企業の自己評価
確認:2026年10月20日 · 発表日は資料から確定できず。Factuality節の低推論設定、11.4%→7.7%、一つ以上の事実誤りを含む回答単位、過去の誤り申告から選んだ難問・通常利用非代表、研究/API環境と製品の相違を再確認。絶対公表日は本文で確認できずnull。評価母数・全原回答の独立再採点・再現試験は未実施。価格・競合順位は採用しない。
- 1.3.6.6.18. Binomial Distribution
NIST / SEMATECH e-Handbook of Statistical Methods · 公的な統計参照資料
確認:2026年10月20日 · 発表日は資料から確定できず。二択・同一pの二項分布、平均np、標準偏差√np(1−p)、推定割合x/nを本文で確認。独立性を前提に加え、割合の標準偏差へ換算。本稿のp/n例は独自計算であり、実際のAI評価や信頼区間ではない。
OpenAI API Documentation · 公式の評価方法説明
確認:2026年10月20日 · 発表日は資料から確定できず。期待する挙動、テストデータ、testing_criteria、採点方法の説明を確認。API利用の手順自体は記事へ転載せず、外部API実行・課金・データ送信なし。
- 生成AIを用いたシステムのリスク低減と信頼性向上のために
国立研究開発法人産業技術総合研究所 · 公的研究機関の品質管理解説
確認:2026年10月20日 · 発表:2025-05-26。用途から品質要件、構成部分ごとの管理、RAGと外部連携の位置づけを本文で再確認。PDFガイドライン全編の精読を意味しない。企業評価の独立再現資料ではない。
主張と出典の照合メモ
ASL-005-V3-C1 GPT-6.1 Sol公式紹介は低推論設定の特定評価で事実誤りを含む回答率11.4%から7.7%への低下を報告する。対応する出典:V3-AI-008。企業自己評価・難問非代表・研究/API環境・独立再現なし。丸め値から差3.7ポイント、相対減少約32.5%を計算。
ASL-005-V3-C2 SimpleQAは短く答えの確定する事実質問を対象にした評価であり、長文全体への適用には範囲の限界がある。対応する出典:V3-AI-003。2024年発表の評価。現行製品の順位や一般的な利用の誤答率ではない。
ASL-005-V3-C3 独立・同一確率の二項模型で、成功割合の標準偏差は√(p(1−p)÷n)。対応する出典:V3-AI-009。NISTの二項分布の分散からの変換。仮想p=0.8、n=100/400の計算を実測や信頼区間と呼ばない。
ASL-005-V3-C4 評価の入力データ、期待する挙動、採点基準を明示して評価を設計する公式手順がある。対応する出典:V3-AI-010。API呼出しや有料試験は実施していない。手順へのリンクは妥当性の保証ではない。
ASL-005-V3-C5 問題群の配分によって平均正答率が変わる。仮定した90%・50%の能力なら配分80対20で82%、半々で70%。対応する出典:。独自の加重平均模型。製品の測定成績ではない。
更新履歴:第3版(2026年10月20日改稿・初稿は10月19日)。訂正がある場合は、この欄に日付と変更点を記録します。
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