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理数の特集 地球・海洋・数学 · ASL-015 · 第1版

海の高さで、海の熱がわかる?

NASAのエルニーニョ比較から、電波の往復時間・熱膨張・逆問題を読み解く

2026年10月24日確認 · AI補助:Codex · 掲載版

架空の成人海洋研究者と海の断面、衛星を描いた昭和レトロ科学雑誌風の創作画。海面と暖水の形は誇張したイメージで、実測地図・衛星写真ではない。
説明のためにAIで生成した創作イラストです。人物・場面は架空で、実験写真・実測データ・実際の装置配置や研究対象の正確な可視化ではありません。

宇宙から海を見ると、表面のわずかな高さの違いが、海中の熱を考える材料になります。けれども衛星が直接測っているのは、水温そのものではありません。高さから内部を推定するには、測定と計算の間にある条件を確かめる必要があります。

2026年10月のNASAの解説を入口に、海の高さを測る方法、暖水が海面を変える仕組み、そして1つの観測から答えを決めすぎない数学を考えます。式は3組です。記号の意味と、実際に引き算・掛け算をするところから進めます。

01

3つの年を比べる。赤い海は何を表す?

NASAは2026年10月23日、1997年・2015年・2026年のエルニーニョを海面高度から比べる解説を公開しました。掲載図の観測日は、それぞれ1997年10月13日、2015年10月12日、2026年10月12日です。10月23日に海全体を撮影した写真、という意味ではありません。

根拠:NASA Earth Observatory [EN-S01]

比較の対象は、基準に対して海面がどれだけ高いかを表す「海面高度偏差」です。NASAの図では、2026年と1997年は中央・東部赤道太平洋の高い海面が南米側まで延び、2015年とは分布が異なります。ただし、この形が似ていることから、今後の天候まで同じになるとは決められません。

根拠:NASA Earth Observatory [EN-S01]

1997年10月13日、2015年10月12日、2026年10月12日を比較。解説公開日は2026年10月23日。
公開日と観測日を分けた資料案内。色付きの実測地図は転載していません。 図を選ぶと原寸で開けます。

02

宇宙からの物差しは、電波の「往復時間」

高い波が見えたから海面が高い、と判断するわけではありません。レーダー高度計は海面へ電波を送り、戻ってくる信号を調べます。出発から帰着までの時間に電波の速さを掛ければ往復の道のりになります。片道の距離は、その半分です。

根拠:NASA/JPL [EN-S02]

r=cΔt2 h=H−r
まず衛星から海までの距離rを求め、次に基準面から衛星までの高さHから引きます。下の式は補正を省いた測定原理です。
r
衛星から海面までの片道距離。単位はm。
c
電波が進む速さ。ここでは真空中の光速として考えます。
Δt
電波が往復する時間。Δは「差」を表す記号で、単位は秒です。
H
共通の基準面から測った衛星の高さ。
h
同じ基準面から測った海面の高さ。

たとえば計算練習として、Hが1000m、片道距離rが999mなら、hは1mです。海面が10cm上がり、衛星の高さが同じなら、rは10cm短くなります。高さを直接読むというより、2つの大きな距離の差を求めています。この1000mは実際の観測衛星の軌道高度ではありません。

衛星から海までの往復時間で片道距離rを計算。共通基準面からの衛星高さHからrを引くと海面高さh。
同じ基準面を使って高さを引き算する概念図。地球の曲率・縮尺・実機形状を省略しています。 図を選ぶと原寸で開けます。

実際には衛星も動き、海面も波立ちます。水蒸気や電離層は電波の進み方を変えるため、遅れの補正が必要です。衛星の位置を正確に求める作業も欠かせません。基準面には地球の形を近似した面などが使われ、重力や海流による凹凸も区別します。たった1回の反射だけで海を精密に測り終えた、と読むのは早すぎます。

根拠:NASA/JPL [EN-S02]NASA/JPL [EN-S03]

03

暖かい水は、どれくらい海面を持ち上げる?

海水が暖まると、一定の条件では、同じ質量の水が占める体積が増えます。熱膨張と呼ばれる変化です。深いところまで暖まれば、表面の温度変化が同じでも、膨らむ水の量は多くなります。だから海面の形には、表面だけでは見えない内部の情報も表れます。

根拠:気象庁 [EN-S04]NOAA/NCEI [EN-S06]

ここでは海の一部を、横の面積が変わらない水柱として考えます。横から水が出入りせず、厚さDの層だけが一様に暖まる、という計算用の模型です。現実の海をこの容器に閉じ込められるわけではありませんが、何が高さを左右するのかは整理できます。

Δh≈αDΔT
高さの増加は、膨らみやすさ×暖まる層の厚さ×温度上昇で近似できます。小さな変化を考え、係数を一定とした教育用模型です。
Δh
熱膨張だけによる海面の上昇量。単位はm。
α
アルファ。温度が1℃上がるごとに体積が増える割合。温度・塩分・圧力で変わります。
D
一様に暖まると仮定した層の厚さ。単位はm。
ΔT
デルタ・ティー。温度の上昇幅。1℃の温度差は1Kの温度差と同じ大きさです。
≈
完全な等号ではなく、「近似的に等しい」という意味。

仮にαを1℃当たり0.0002、Dを100m、温度上昇を1℃と置くと、0.0002×100×1=0.02m、つまり2cmです。小さな割合でも、100m分を積み上げるとcmの変化になります。係数も条件も説明用に置いたもので、2026年の太平洋を測った数値ではありません。

仮定した係数0.0002毎℃、厚さ100m、温度上昇1℃から、2cmの熱膨張を計算する模型。
100mの層が1℃暖まる仮想計算。膨張係数を固定し、面積・質量一定の水柱を考えています。 図を選ぶと原寸で開けます。

層の厚さと温度を変えてみる

横への水の出入りがない水柱で、膨張係数を1℃当たり0.0002に固定した模型です。実測値・温度推定・予報には使えません。

この仮定での高さの増加:2.0cm

0.0002 × 100 × 1.0 × 100 = 2.0cm

最後の×100は、mをcmへ換算するためです。100m・2℃と200m・1℃を比べると、どちらも4.0cmになります。

この模型では、100mを2℃暖めても、200mを1℃暖めても、上昇量は4cmです。同じ高さの変化を生む温度分布は1つではありません。表面の高さだけから、何mの深さが何℃変わったのかを一意に決めることはできないのです。

係数を固定した模型では100mの層が2℃暖まる場合と200mの層が1℃暖まる場合で、ともに4cm上昇する。実測ではない。
同じ4cmに対応する2通りの仮想条件。実海域の推定結果でも、海洋の全状態が等しいという意味でもありません。 図を選ぶと原寸で開けます。

04

「いつもより高い」は、引き算でつくる

海面の高さそのものと、普段からのずれは別の量です。身近な例なら、今日の気温が25℃という情報と、その季節の基準より3℃高いという情報では、伝わる意味が違います。海でも、何との差を取ったのかによって、目立つ変化が変わります。

a=h−b
偏差は、観測した値から基準を引いたものです。NASAの比較図では、季節的な変化と長期傾向を除いています。単純な固定平均だけを引く処理と同一ではありません。
a
基準からのずれ。プラスなら基準より高い側。
h
補正などを行って得た観測側の海面高度。
b
比較のために決めた基準側の値。目的や処理によって定め方が変わります。

計算の練習として、ある地点の基準を12cm、今回の値を15cmとすれば、偏差は+3cmです。別の地点で基準も今回の値も大きくても、その差が小さければ偏差は小さくなります。色の濃い地点が、地球上で絶対的に最も高い海面とは限りません。

基準12cm、観測15cmを仮定して、差がプラス3cmになることを示す架空の棒グラフ。
差の意味だけを示す架空の数値例。NASA図の基準値や処理を再計算したものではありません。 図を選ぶと原寸で開けます。

NASAは今回の比較図で季節変動と長期傾向を取り除いたと説明しています。エルニーニョのような変動を比べやすくするための処理です。その図から世界全体の長期的な海面上昇を読み取ろうとすると、取り除かれた成分を見落とします。何を残し、何を除いた図なのかを、凡例や説明文で確かめる必要があります。

根拠:NASA Earth Observatory [EN-S01]

気象庁の海面水温の監視指数にも、基準をどう設定して長期変化と区別するかという工夫があります。ただし、これは水温の指数の話です。NASAの海面高度偏差とは、測っている量も処理も同じではありません。

根拠:気象庁 [EN-S05]

05

海と風が、お互いの状態を変える

赤道太平洋では、東から西へ吹く貿易風が暖かい表層水を西側へ寄せています。風が弱まると暖水が東へ広がりやすくなり、東部で冷たい水が上がってくる働きも弱まります。変化した水温分布は大気の循環に影響し、風の変化に戻ってきます。海と大気が結び付いて変動するのが、エルニーニョを理解するうえでの要点です。

根拠:気象庁 [EN-S04]気象庁 [EN-S05]

弱い貿易風、東に広がる暖水、変わる大気循環と風への影響を示した相互作用の模式図。唯一の発生原因ではない。
代表的な海と風の相互作用を整理した模式図。発生から終息までの全過程や、必ず同じ順序で起きる原因鎖を表すものではありません。 図を選ぶと原寸で開けます。

風呂の湯を片側へ寄せる例は、水が再分配される感覚をつかむ助けにはなります。ただし海は、回転する地球上で、深さや密度の異なる水が動く広大な流体です。水槽の往復運動だけで周期や強さを予測することはできません。発生のきっかけも1つの要因だけで説明しきれるわけではありません。

根拠:気象庁 [EN-S04]

06

高さから原因へ。逆向きの推理を確かめる

原因から結果を計算するなら、「この層を暖めたら何cm膨らむか」と問えます。観測では反対に、「このcmの変化を生む内部の状態は何か」と考えます。このように結果から原因や内部を推定する問題を、逆問題と呼びます。先ほどの2通りの模型が示したように、答えが1つに決まらないことがあります。

現実には塩分の違いも密度を変えます。海流による水の移動や重力の分布も海面の形に関係します。そこで、海中を浮き沈みするArgoフロートの温度・塩分観測などと組み合わせます。衛星は広い範囲の海面の形を、海中の計器は深さ方向の状態を調べ、互いに足りない情報を補います。

根拠:NASA/JPL [EN-S03]NOAA/NCEI [EN-S06]国際Argo計画 [EN-S07]

衛星による海面形状とArgoによる深さ方向の温度塩分を照合する考え方。実在観測地点の図ではない。
違う測り方を突き合わせる観測の考え方。特定地点の実データや、各装置の正確な測定範囲を示す図ではありません。 図を選ぶと原寸で開けます。

複数の観測を使えば、どんな推定でも正しくなるわけではありません。海中観測が少ない場所や時期、計器の誤差、計算で置いた条件が結果に残ります。NOAAの解説も、海洋の熱量の評価には水温測定と観測の空間・時間分布に由来する不確実性があると述べています。

根拠:NOAA/NCEI [EN-S06]

07

1997年に似ている。それでも未来は別に確かめる

過去の年と比較する価値は、似ている点と違う点を整理できることです。海の形が似ていれば、過去の知識を手掛かりにできます。しかし、形が似ているという観測上の共通点から、地域ごとの雨や気温の経過まで一致するとは言えません。NASAの今回の解説も、影響の現れ方はまだ確定していないと留保しています。

根拠:NASA Earth Observatory [EN-S01]

観測、内部状態の推定、未来予測の3段階を区別する図。過去と海面分布が似ても天候が一致する保証はない。
観測・推定・予測を分けて読むための整理。予報モデルを実行した結果ではありません。 図を選ぶと原寸で開けます。

予測を読むときは、何を、どの地域について、いつまで予測しているのかを確かめます。「強いエルニーニョになる確率」と「住んでいる町で大雨になる確率」は、対象の違う問いです。今回の記事では、個別地域の天候や災害の予報は行いません。

海面の数cmを読むには、電波の往復、基準面の選択、引き算、海水の物理、別の観測との照合が重なっています。図の赤い部分を見つけた後に、何の量で、何との差で、どこまで確かめられたのかをたどると、研究者が何を知ろうとしているのかが具体的になります。

読み終えた後に残る問い

同じ4cmの海面上昇について、「100mの層が2℃暖まった」と「200mの層が1℃暖まった」を見分けるなら、何をどの深さで測りますか? さらに塩分が変わった可能性を調べるには、どの観測を加えますか?

出典と確認範囲

以下の一次資料を参照した独自の説明です。資料の図版や写真は転載していません。数式の模型・研究の実測・理論上の成果を区別しています。

  1. El Niño Then and Now

    NASA Earth Observatory · 2026-10-23 · EN-S01

    2026年10月12日、2015年10月12日、1997年10月13日の海面高度偏差を比較した観測解説。査読論文の新規発表ではない。季節変動・長期傾向を除いた図であり、未来の天候は未確定。 確認:2026-10-23T23:26:49.233446+00:00

  2. Technology | Missions

    NASA/JPL · 公開日未確定 · EN-S02

    衛星の軌道位置、レーダー往復時間、距離と高度の差、独立検証の説明を確認。本文の距離式では往復なので2で割る。ページ内の装置や精度は世代が混在するため、最新衛星の保証精度には転用しない。 確認:2026-10-23T23:26:49.233446+00:00

  3. Ocean Surface Topography

    NASA/JPL · 公開日未確定 · EN-S03

    基準面、重力と海流による凹凸、水蒸気と電離層による電波の遅れを確認。 確認:2026-10-23T23:26:49.233446+00:00

  4. よくある質問:定義・メカニズムなど

    気象庁 · 公開日未確定 · EN-S04

    海面水温での定義、海洋と大気の相互作用、暖水の東への移動と海面水位の関係を確認。海面高度だけで発生を判定する記事にはしない。 確認:2026-10-23T23:26:49.233446+00:00

  5. よくある質問:各種指数など

    気象庁 · 公開日未確定 · EN-S05

    基準値と長期傾向、貿易風と大気の循環、深さ方向の熱量の説明を確認。気象庁の水温指数とNASAの海面高度偏差の処理を同一とは扱わない。 確認:2026-10-23T23:26:49.233446+00:00

  6. Ocean Heat Content, Salt Content, and Sea Level Anomalies

    NOAA/NCEI · 公開日未確定 · EN-S06

    熱膨張、塩分・温度・圧力の影響、現場観測と観測分布の不確実性を確認。模型の膨張係数は観測から採用した値ではない。 確認:2026-10-23T23:26:49.233446+00:00

  7. What is Argo?

    国際Argo計画 · 公開日未確定 · EN-S07

    浮沈するフロートが温度・塩分を測り、衛星の海面形状観測と補い合う説明を確認。2024年の台数・プロフィール件数は現在値として引用しない。 確認:2026-10-23T23:26:49.233446+00:00

主要主張と出典の対応

EN-C01 NASAの解説は10月23日公開、2026年図は10月12日の海面高度偏差を示す。EN-S01。衛星写真や同日一斉観測の主張ではない。

EN-C02 軌道位置とレーダー往復時間から、補正を含め海面高度を求める。EN-S02、EN-S03。r=cΔt/2、h=H−rは補正を省いた原理式。

EN-C03 海水の熱膨張と内部温度は海面変化に関係する。EN-S04、EN-S06。塩分・圧力・水の移動を無視した一意の温度換算はしない。

EN-C04 一定係数の教育模型では100m×1℃が2cm、100m×2℃と200m×1℃が各4cmとなる。。係数0.0002/℃は説明用の仮定。観測値でなく自作計算。

EN-C05 NASAの比較図では季節変動と長期傾向を除いている。EN-S01。固定平均を引くだけの模型と実処理を同一視しない。

EN-C06 貿易風と海洋・大気の相互作用が重要である。EN-S04、EN-S05。発生の唯一の引き金や必然的な順序を断定しない。

EN-C07 Argoの温度・塩分観測は衛星の海面観測を補う。EN-S07、EN-S06。観測分布と誤差による制約は残る。

EN-C08 過去年と海面分布が似ても将来の天候が一致する保証はない。EN-S01。地域予報や災害予測は行わない。